コラム

Column

換気システムの歴史及び課題と対応

ダクトレスの課題と対応

01 ダグトレス中心に課題と対応を探る これまでの流れを振り返る

基準法改正による義務化により、必ず付けなければいけない設備になった換気ですが、いくつかの課題があることが指摘されています。今回はダクトレス換気を中心にその課題と対応について見ていきたいと思います。


質問
機械換気の設置が義務化されてから、ずっとダクトセントラルの第三種換気システムを採用してきましたが、知り合いの同業者から『ダクトレスのほうが安上がりだ』と聞かされ、コストも厳しいので変更しようかと迷っています。どちらがいいのでしょうか。
回答
簡単そうで難しい質問です。何をもっていい悪いを決めるのかにより、答えは違ってきます。価格だけを見ればパイプファンを使った第三種のダクトレスが最も安上がりでしょうから、ダクトレスがいい換気ということになります。しかし質問はそういう意味ではないでしょう。価格は重要だとしても性能や耐久性、信頼性はどうなんだと考えた場合、総合的に見てバランスがよいのは何かという意味だと思います。そこで今回は、ダクトレスとダクト式第三種を軸に、改めて換気について考えてみたいと思います。
主に3通りの換気手法

まず、現在使われている換気手法を整理したいと思います。

ダクト式の第三種セントラルは、排気用のダクトを居室などに配管し、ファンで集めて集中排気します。給気は壁に設置する給気口から、排気によって生じる圧力差で自然に給気します。

ダクト式の第一種熱交換セントラルは、給気・排気ともにダクト配管し、居室に新鮮空気を送り込み、トイレなどから排気します。ダクトで集められた汚染空気は熱交換素子の中で熱を新鮮空気に受け渡して捨てられます。

ダクトレスは方法として排気型の第三種、機械給気・機械排気型の第一種、押し込み給気型の第二種が考えられます。壁付けタイプでパイプ径100φ対応製品は、いずれもファンの能力が30立方メートル/h程度なので設置台数はかなり多くなります。このうち第一種は給・排一体型の熱交換型、通称ロスナイタイプだと価格が高いためコストメリットはありません。第二種は冬場の給気が寒くて使えません。使えそうなのは第三種ということになります。ここでは第三種を想定して話を進めます。なお2ヵ所、3ヵ所排気のファンはある程度の能力があるので多室換気ができますが、ダクト配管が必要です。

近年機械換気のほかにさらなる省エネの観点から自然換気が増えています。

求められる条件を分類

さて、特殊な製品を除き、機械換気が義務化された今、換気に求めるものはどのようなことでしょうか。一覧表にしてみました。大きく必須条件、十分条件、付加条件と3つに分けてみました。まずは必須条件。これがなければ始まらないという条件です。当たり前ですが第一に換気性能が重要です。換気性能がクリアできないものは、北海道のような厳しい環境では数年のうちに淘汰(とうた)されます。今までもそうでした。

求められる品質
必須条件 初期換気性能(結露防止、VOC排出)
手離れの良さ(設置後手がかからない)
材工価格
静音性
施工性・設置場所
十分条件 初期換気性能の維持
機械・システムの10年後の信頼性
省エネ性・ランニングコスト
付加条件 給気の冷たさ解消
乾燥感解消

換気に求められる性能

換気性能に対する疑問

ダクト式第三種セントラルが現在主流になっているのは、これらの条件をバランスよく備えているからです。すべてが100点ではありませんが、必須条件はすべてクリアし、さらに十分条件も相当ポイントが高いのです。
前段が本当に長くなってしまいました。質問のダクトレスについてみていきたいと思います。
実は、最も大切な換気性能に対し、今年になってから疑問が投げかけられているのです。

02 ロスナタイプから熱交、第三種へ 北海道の歴史から見た換気

局所換気からスタート

住宅の断熱・気密化に伴って換気の重要性に気づきはじめたというのが北海道の換気の歴史です。高断熱・高気密住宅が開発される前後の換気の状況は、結露対策に排湿型の壁掛け熱交換換気扇、通称ロスナイタイプを設置するというのが一般的でした。ここが北海道の計画換気のスタートラインと言っていいでしょう。通称ロスナイタイプは、簡単でそれなりに結露を抑える効果はありました。しかしあくまでも一部屋だけの局所換気なので、ほかの空間は空気のよどみや結露が改善されず、また設置した部屋も空気がきれいになったという実感はあまりありませんでした。そんな状況の中で徐々に目につくようになったのがダクトセントラル換気システムです。換気システムが設置されていると、ハッキリ分かるほど空気がきれいで結露もない。電気代もさほど高くないということで、換気システムが装着されるようになってきました。


熱交換型から第三種へ

換気システムは第一種熱交換から始まりました。熱交換することで冬場は給気が暖かくなるほか、省エネにも貢献するということで、ラインナップは熱交換中心だったのです。しかし、これが徐々に第三種に切り替わっていきます。機械として悪いものではないのですが、フィルターの目詰まりによる換気量減少・結露発生、熱交換素子の霜付き、運転休止中に発生したカビが運転再開時に放出されるなど。あまりにも手がかかり、住宅用としては手に余るものだということが分かってきたのです。一方、給気加温効果と省エネ効果もじゅうぶんなものではありませんでした。道北・道東など最低気温がマイナス20℃を下回る地域では、給気を少しでも暖めたいという要望が強くありますが、寒くなるほど熱交換効率は低下し、給気がじゅうぶん暖まらないのです。また熱交換素子の霜取りなどのため予熱ヒーターを運転すると、電気代が高くなり、ユーザーは換気を止めてしまいます。さらに省エネ効果も最も効果的な旭川以北でさえ限られており、採算が取れるには20数年を要することがわかってくると、標準装備として熱交換換気を採用することが難しくなってきました。最近では汚染空気と新鮮空気の混入の問題も表面化しました。全熱交換型といわれる湿度も受け渡すタイプはこの問題を避けることができず、せっかくエネルギーを使って熱交換換気しているのに、混入によって低下する換気効率を補うため、換気量を増やさなければなりません。改良品も発売されていますが、市場での評価はこれからです。

基準法改正後からダクトレス増

このような流れの中で、現在は第三種の換気システムが主流になっています。ダクトの抵抗など、設計と施工に注意が必要ですが、最も安定した換気と評価されています。第三種換気としてはダクトセントラルのほか、パイプファン型のダクトレス換気もあります。

この簡易なタイプがローコストな換気として換気設備の設置義務化以降、本州を中心にシェアを伸ばしました。


先進国・北欧の歴史

セントラル換気システムの先進地、北欧では極寒冷地向けに当初は給気口にヒーターを仕込んだ換気が登場、その改良型として熱交換換気が登場した背景があるといいます。90年代に入ると住宅の省エネをさらに推進する中で熱交換換気が注目を集め、熱交換換気の全盛時代を迎えます。しかし現在は再び第三種が主流となり、熱交換換気の技術開発はストップしたようです。省エネ対策としては第三種の排気熱から熱回収して温水をつくる排気熱回収のヒートポンプなどへ向かっているのが現状です。

写真:最近はヒートポンプも増えている
(モデルハウスでヒートポンプをのぞき込む来場者。スウェーデン)


03 換気量が約半分に ファンが室内気密に負ける

前項では拡大版のQ&Aとして、ダクトレス換気を考える前にこれまでの日本での換気の歴史を振り返ってみました。今回はダクトレス換気の換気性能から。

ダクトレスは壁に付けたパイプファンから直接排気するから、換気能力はほぼカタログ値通り発揮されると思っているかたもいます。しかしそうでもないのです。まず第一に屋外の風が強いとき、そして問題は室内の気密性の高さなのです。

1.屋外の風が強いとき
風が壁に吹き付けるような状況の時、ファンはどうしても空回りしがちです。スムーズな排気を確保するために、改良型のフードが発売されているので、必ずそのようなフードを併用します。
2.室内の気密性に負ける
最近のトップレベルの気密住宅になると、気密性能は相当隙間面積で0.15~0.5cm²/m²にも達します。ここまで高くないまでも、1平方センチを切るレベルになると、排気ファンの運転で10パスカル程度の負圧が発生します。この圧力にファンが負けてしまうのです。

実際にパイプファンの換気量を測定した人の話によると、窓を閉め切った状態での測定値は窓を開けた状態、つまり負圧が発生しない状態での測定値の半分しかでなかったというのです。ちなみにそのパイプファンはごく普通のもので、窓を閉めた状態での換気量は15立方メートル/hだったそうです。これには測定者もビルダーも驚いてしまったといいます。

換気ファンのカタログを見てください。パイプファンもP-Q曲線図が掲載されています。実際の換気量は、外部フードと室内の気密性によってつくり出される抵抗によって、減ってしまうのです。どのくらい減るかは一概に言えませんが、静圧は無風時でも10パスカルを超えると見るべきです。

静圧が10パスカルを超えるとすると、静圧が低いプロペラファンは、多くの機種で換気量がカタログ表示の半分になってしまいます。このことをまず頭に入れておくべきです。

主な換気方式の比較
タイプ
比較項目
ダクトレス(壁掛けファン) ダクトセントラル
第三種
備考
第一種熱交換 第三種(排気ファン)
換気エリア 1室のみ 多室換気も可能 原則として全館 第三種は自然給気口が必要
熱交換 温度のみ なし なし 基本的に顕熱タイプ
熱交換素子 樹脂、紙、透湿膜など 有効換気量に注意
熱交換効率 60~70%程度 各メーカーのカタログ値
給気への
排気の混入
屋外に排気された空気の再吸込、および室内での換気効率の低さ(ショートサーキット)が重要な問題 なし なし
フィルター フィルター付もあり 必ずしも必要ない 目詰まりに注意が必要
材工コスト 低い 高い 信頼性は重要な条件

以外と難しい設計 ダクト換気の方が安心感

前項では、パイプファンの注意点として、屋外の風と室内の気密性にファンが負けてしまう点を指摘しました。風対策としては、向かい風でも排気を確保できるフードを採用する必要があります。また室内の気密性に負ける点については、対策というよりそういう問題があるということを事前に知っておくことが大切です。換気量が15立方メートル/hに低下してしまうとすると、天井高が2.4メートル、換気回数0.5回/hとして、パイプファンは8畳の部屋で1台必要になります。つまり、100φタイプパイプファンには、多室間換気するだけの換気能力がない機種もあるのです。

次にパイプファンの換気効果を見ていきたいと思います。換気効果についても、換気が義務化になって以降、いろいろなことが言われています。いちばんの問題は、第一種換気のショートサーキットでしょう。室内に給気したきれいな空気を排気してしまうことや、屋外に排出したはずの汚染空気を給気してしまうことにより、どれだけ換気しても換気効果が上がらないという問題です。これについてはメーカー各社が改良品を発売してきました。どれだけ解消されたかは、今後のユーザーの評価を待ちましょう。第三種換気の場合は、給気・排気ともに外壁面に取り付けなければならないため、寝室など狭い空間ではベッドの置き場所との兼ね合いが難しいということのほか、研究者は、換気効率を上げるためにダクト換気以上に建物の気密性が高くないと、換気経路が混乱すると指摘しています。しかしこれまで説明したように気密性を高くするほどファンの能力が求められることになり、違った問題が発生します。ダクトレスだから簡単というわけでもないのです。

ダクトレスの問題を検証しましたが、結論として言えることは、ダクトレスは設備も取り付けも簡単ですが、期待した換気効果を発揮するにはダクトシステムより難しいという点です。特に気をつけなければならないのは、高気密住宅では高い気密性によって静圧が高まり、カタログ表記の有効換気量通りの換気量が出ない可能性が高いことです。

どんな換気システムを選べばいいのか?

以上の他にも様々な換気システムがありますが、まとめると、少々乱暴的ですが、最低限はダクトレス。推奨は排気型換気システムか調湿型。全館冷暖房を組み込みたい場合は熱交換型といったところでしょう。

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